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知財判決ダイジェスト

特許 令和6年(行ケ)第10049号「ビークル」(知的財産高等裁判所 令和7年3月24日)

【事件概要】
 補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、引用発明、周知事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとの審決の判断は、根拠を欠くものであり、判断の理由が示されておらず、誤りであるとして、拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決を取り消した事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 「引用発明の車両を、リーン姿勢で旋回可能に構成された車両又はドローンとすることに格別の困難性は認められない」との審決の判断の相当性について

【結論】
 引用発明の車両を「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」とすることの困難性の有無について

…引用発明は、バッテリの温度が低いときに、バッテリから供給できる電力が小さいという課題を解決するものであるところ、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」について、エネルギー貯蔵装置(バッテリ)から供給可能な電力が低いとの課題が一般的に存在すると認めるに足りないから、引用発明が解決する課題と、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」が一般的に有する課題が共通するとはいえない。したがって、引用発明の課題と、「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」が一般的に有する課題が共通するために、当業者において、引用発明の車両を「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両」とする動機付けがあると認めることもできない。…そうであるとすれば、…本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきである。…

 引用発明の車両をドローンとすることの困難性の有無について

…車輪が回転して陸上を走行するものである引用発明の車両と、回転翼を回転させ大気中を飛行するものである本件補正発明のドローンとは、構造・移動形態が本質的に異なる。…さらに、本件審決は、…ドローンが「エンジンと発電用電動機とエネルギー貯蔵装置と推進用電動機とを備えた」ものであることを認めるに足りる証拠を示していないし、…引用発明の車両をドローンとすることにつき格別の困難性は認められないと判断する根拠として、ドローンについて「リーン姿勢で旋回可能に構成された車両と同様に一般的に小型でエネルギー貯蔵装置も小型であること」を挙げるが、これを認めるに足りる証拠を示していない。そうであるとすれば、…本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず、誤りがあるというべきである。…

 そして、本件審決における上記判断は、本件補正発明の容易想到性の判断…の過程を成すから、上記判断が誤りである以上、本件審決における本件補正発明の容易想到性の判断も誤りであることになる。

【コメント】
 本件訴訟では、「審決の理由不備」(特許法157条2項4号)が直接の争点となっているわけではない。しかし、判決では「本件審決の判断は、その根拠を欠くものであり、判断の理由を示しておらず」と判示しており、審決に理由不備がある旨を示唆しているようにも受け取れる。審決書に記載すべき理由については、最高裁判例(昭和54(行ツ)134)が「発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の技術上の常識又は技術水準とされる事実など、これらの者にとって顕著な事実について判断を示す場合であるなど特段の事由がない限り、審判における最終的な判断として、その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示することを要する」旨判示している。本判決がこの判例の趣旨を直接踏まえたものかは明らかでないが、いずれにしても、審決では認定事実を裏付ける証拠の提示や、結論を導くための論理構成について、判決は十分でないと判断したものと考えられる。

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